AC

友人からAC(アダルトチルドレン)ではないかと言われたのはTwitterでこんなフリートをあげたのがきっかけだった。

 

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別れてから何度も彼に八つ当たりをした。言ってはいけないことを何度もぶつけた。嫌われたら生きていけないと思いながらもわざと彼に嫌われようとしたり、自分でも感情がコントロール出来無くなった。毎日のように泣いてしまいには過呼吸で倒れた。なのにいくら迷惑をかけても愚痴を話しても、病気や家庭環境のせいにしても許してくれる彼を好きじゃなくなることが出来なかった。自分の本心がどこにあるのか分からずに怖かった。それもあって死のうと思った。だからこそACなのかもと言われた時には納得したい自分がいた。私は彼を恋人ではなく親の代わりに私を愛してくれる人だと思い込んでいたのだと気づいてしまったから。

 

 

 

父親との記憶で一番古いものはベッドの上。昔は父と寝室のベッドが隣同士だった。でもいつも寝るのは私の方が先で、でも起きるのは父の方が早い。だからその日の夜中に目が覚めた時に父親が横に寝ているのが単純に嬉しかった。近くで寝たいけどでれでれするのが恥ずかしくて、寝相が悪いふりをして父の横までごろごろ転がった。

けれども父は近寄ってきた私を私のベッドまで押し飛ばした。それが恐らく幼いなりにショックで、そこから上手く甘えられなくなったのだと思う。だからこそ抱きしめながら一緒に寝てくれた彼の体温を忘れたくないのだとも思う。

 

次に決定的だった瞬間は中一の時、1度模試の数学で57点を取った。

寝る前にぽつりとその話をしたら初めて説教をされた。内容は全然覚えていないけど『普段全然話をしてくれないのになぜ?』と思うと同時に『いい点数を取らないと見捨てられる』と思った。そこから高校に入るまでテストはほぼクラス1位だった。

 

高校2年生の時、高校から親元を離れて祖母と暮らしていたのだがたまに実家に帰省もしていた。その帰り道の車の中で「何部に入ってたんだっけ?」と父に聞かれた。いくら話をしていないとはいえもう高校に入って1年以上は経っているのに。兄の部活の試合の日程はくまなくチェックしているくせに、なんで私のやることはそんなに無関心なんだろう。こんなに頑張ってるのに。なんで嬉しそうな顔で褒めてくれないんだろう。発表を見に来てくれないんだろう。私のやりたいことを応援してくれないんだろう。そう言ってやりたい気持ちを必死で堪えた。

兄妹間の線引きをはっきりと感じてしまい、そこから私は父に期待するのを諦めた。

 

 

 

大学に入り完全に親元を離れてからはその事に苦しむこともあまり無くなった。比較されていると日常生活で感じることが無くなったしバイト先でも大学でも居場所が見つかったし、親以外に私のことを評価してくれる人がいると気づいたからだ。

 

でも彼にしがみついてしまうのは未だに私が『無条件に私を愛してくれる人』を求めているから。フリートにも書いた通り父親がしてくれなかったことをしてくれたのも、ずっと男の人が怖かったのに触れたいと思ったのも触れられたいと思ったのも彼が初めてだったから。

昔の親との確執を断ち切って依存じゃなくて心の底から純粋な気持ちで彼を好きになりたい。そう思ってから直ぐに彼と、いつも相談している友人(精神科で看護師をしている)と電話をして昔のことを色々と話した。

親にして貰えなかったことを彼がしてくれたこと。それもあって彼に依存してしまっていたこと。いつしか彼を親の代わりに自分を愛してくれる人だと思い込んで酷いことをしてしまったこと。それに気づいていなかったため別れてからずっと感情のコントロールができなかったこと。

 

彼はまた許してくれたし、友人は『フリートを見て自分でそれに気づけたのはすごいなって思ったよ!』と褒めてくれた。

彼も兄妹間の差別や父親との確執があると付き合っていた頃に話していたが、今は実家に住んでるし父親とは月一で飲みに行っているとも話していた。それがどうしても不思議で、思い切って「どうしたら親のことを許せますか?」と聞いてしまった。

 

 

 

しかし彼からの返事は私の想像の斜め上を行くもので、

 

「いや、全然許してない!笑

めっちゃ許せてないし表に出さんけど根に持ってる」

 

と軽く笑い飛ばされてしまった。でもその一言ですっと心が軽くなった。

 

 

 

「みんなりん子が思っとるほど大人じゃないよ、俺だって全然子供やし」

 

アダルトチルドレンも、HSPも、(私が)調べたらそれを気にしすぎるタイプなんやから、あまり調べすぎん方がええよ」

 

 

 

彼は私のことを知ったかぶって話してくる。けどそれがいつも的を得ているから、嬉しくもあり悔しくもある。ここまで色んなことを話せるのが彼しかいないからなのだけど、私のことを理解してくれるのは彼しかいないと思ってしまう。ずるい。

 

 

 

 

アダルトチルドレンを、過去を克服出来たら変わるのだろうか。親への気持ちも彼への執着も。

それが怖いと思いつつも、今は、夜に泣かずに寝られるようになりたい。

ばいばい

 

 

別れてから3週間。今でも死ぬほど好きだから、死のうと思った。

 

 

「ニコチン 中毒死」、「タバコ ニコチン 抽出」調べたらすぐにたくさんのブログが出てきた。痛くない死に方じゃないと無理だと思ったからこれが一番いいと、彼のせいで知ったタバコで死にたいと思った。

 

 

メンソールの匂いがするニコチンが入ってるのであろう茶色い液体を、適当に作った赤玉パンチと唯一彼に貰ったものであるほろ酔いの缶に混ぜて飲んだ。2つとも半分ぐらい飲み干した頃に次第に指先が痺れてきたのがわかった。彼が好きだと言ってくれたのも抱きしめてくれたのもセックスしたのだってこのベッドの上だった。鍵は開けておいたから綺麗なうちに見つかるといいな、そんなことを考えながらアルコールのせいかニコチンのせいかでぼーっとする中、ベッドに横たわり意識が飛ぶのを待っていた。

 

 

私がいなくなったらあなたは泣くだろうか。報せを聞いた時にどんな顔をするんだろ。別れてから少しでも私のことを惜しいと思ってくれただろうか、別れてからもずっとあなたの事を好きでいてごめんなさい。迷惑だよね。

みんなへの遺書だって便箋2枚にしかならなかったのに彼への手紙は書き終わりそうになかったから中途半端なところで切り上げてしまった。

死んでからもし幽霊になれるなら彼の横にずっとついていたい。私のせいで彼が泣いてる姿や悲しんでる姿が見たかった。私のことがトラウマになって一生恋愛も、他の女の子とキスもしないでいてくれたらいいのに。なかなか意識が薄れてくれない中、彼のことばっかり考えていた。

 

 

 

結局30分ぐらいうんうん苦しみ、残りを飲むかベランダから飛び降りるかを考えた後に我慢できずに吐いて、水を飲んでまた吐いて、馬鹿だな、と死ぬのが怖いのに中途半端なことをした自分の愚かさを嘆いた。ニコチンの苦い液体とメンソールの匂いが充満する部屋で「大阪にいたらだめだ、実家に帰ろう」と逃げる決意をしてから4時ぐらいにようやく寝たと思う。

 

 

 

 

 

そんなこんなで1週間半ぐらいは実家で静養をし、大阪に帰った。休んでいた届けを出すためにほぼ2週間ぶりに学校で会った時に相変わらず彼は何事も無かったかのように接してきたし、私の実家から電話した時に帰省したことは伝えていたけれども私が「帰省してたんです」と地元のお菓子を渡したら「ありがとう」と喜んで受け取ってくれた。

 

久しぶりに彼の顔を見てときめきつつも「良かったね、私が死んでなくって」と内心思っていた。さすがに2週間近く経てば学校、バイト先、友達が私と連絡がつかないことに気がついて私の部屋に来るだろうなと、思い、自殺未遂の次の日にバイトのシフトを入れていたし2日後にはサークルのスタジオの練習も入っていた。部屋の鍵も開けていたから私の予定では死んだ後になるべく綺麗なうちに見つかるはずだった。

そしたら彼への遺書が見つかる。この遺書にはちゃんと彼の名前が書いてあるし私の携帯の中には彼とのLINEの履歴もある。学校に全部ばれてしまえ、私がどれだけあなたを好きだったのか、中途半端な気持ちで手を出してきたことを後悔すればいい。

 

結局彼への遺書は私の手帳の中に入れたままで実家に帰った。毎日することが無く、ぼーっとしつつも何かの手違いで死ねないかと思っていたためとりあえずどれだけ彼のことが好きだったのか死んだ後に証明出来るものを持っていた方がいいと思った。

 

 

 

ここまで書いておいても馬鹿なことしたなとは思っていない。もともと人は簡単に死んでしまうのだから。この記事をアップするまでにまた何度か自分で命を絶とうともしたし事故や病気で突然亡くなる可能性もあるわけだし。

それでも今はできるだけ彼のそばに居たいと思っている。それが彼にとっての幸せではないのだとしても。

 

手帳に挟んだ手紙は捨ててしまったしこの気持ちが死ぬまで続くかなんて誰にも分からないけど、死ぬほど彼のことを好きだった記録がどこかにあればいいなと思ってこの記事を書いた。

もしまた彼と一緒になれる前に死んでしまったらこの記事を読んでくれないかな、なんてそんなことも考えながら。

特別措置

 

 

ノンセクシャルじゃ無いのかもしれない。

 

ずっと望んでいたことのはずなのに1度そう考え出したら不安でたまらなくなった。

 

 

 

 

「先輩、元彼とセックスしたいって思ってしまうのはどうしてなんでしょうか」

 

 

 

大学時代のLGBTsの当事者サークルの先輩たちとの久しぶりの飲み会。コロナ禍でもちょこちょこ連絡を取ったりサークルの活動も行ってはいたが直接顔を合わせて話すのは半年ぶりだった。最初はお互いの近況報告から始まり、私のターンになり色々話をした。

 

前好きだった人に彼女がいた事。彼女だと思っていたが最近セフレだと発覚したこと。それをきっかけに吹っ切れた結果学校の先生を好きになったこと。両思いになれて付き合えたこと。直ぐに別れてしまったこと。彼にノンセクシャルだとカミングアウトしたこと。今でも彼が好きだけど諦めるためにわざと嫌われようとしてしまいその都度後悔してしまうこと。

 

私だけが異常なペースで酒を飲んでいたため上手く話せていたかどうかは自信が無いが先輩たちは私の拙い説明にも終始優しく頷いて聞いてくれた。

そんな中投げかけたのが冒頭の質問になる。

 

 

 

彼と別れてから何度も考えた。私は彼と望んで行為をしていたのか。年始にはあんなに男性が同じ空間にいるのも嫌で会話も出来ないくらいだったのに。前好きだった人ともキスも性行為をしたいと思えず、ただ「普通の女の子」を演じるためにしなければいけない行為だと思っていた。彼との行為を望む私を認めることは、彼への気持ちが本当の好きだという気持ちだとしたら、前まで好きだった人達への恋愛感情を否定することになるんじゃないのか。ノンセクシャルじゃ無かったら果たして私は一体なんなのか。

 

 

 

「そう思うことは否定しなくていいよ」

 

「自分にとって特別な人ってことにしたら?」

 

先輩はそう優しく諭してくれた。「セクシャリティなんて流動性があるものだし決めるのは自分自身なのだから」、と。

 

確かに私にとって彼は特別だ。特別であり唯一無二の男性。私にとっての初めてをほとんどかっさらっていってしまった人。

 

その後「でも新しい恋に行くことをおすすめする!」と先輩たちには言いきられてしまったけれども、案の定聞く耳を持てない私はとりあえず彼に対してのみ特別措置をとることにし、したいと思う自分を素直に認めることにした。

 

 

 

 

 

自殺未遂の一件後、彼と初めて電話をした時に死のうとしたことは伏せつつ、やんわりと精神的に限界が来てしまい学校を休んで実家に帰っていることを伝えた。

 

「すぐ辞めちゃうし逃げちゃうんですよね、部活とかも」とぽそりと言うと、彼も似た経験があると、高校の頃に部内で自分だけが空回りしてしまい高校の友達とは疎遠になってしまっていることを教えてくれた。いつも呆れるほど明るい彼がそうやってたまに私に弱みを見せてくれるとこも好きだった。

 

就活の相談をするためにという件で電話をしたがそれ以外の下らない話を前と変わらずしてくれる彼を愛しいと思ってしまったし、「付き合うなら年上の方が合っとるんかもしれん」とやんわり復縁が無いことを匂わせる彼に「いやでも私精神年齢高いですから!」や「私社長令嬢なのでもう私より条件いい女の子なんて居ないですよ」としつこく食い下がってしまったのは彼からしたら迷惑でしかないかもしれないけど、それぐらい言う事だけでも許して欲しかった。

最後に前にLINEで彼に八つ当たりをしたことを謝ると彼も「しょうがないよ」と謝ってから就活が終わったらまたご飯に行こうと誘ってくれた。こんな私にもいつまで優しくしてくれるのだろうかと不安になりつつ、彼のそういうところが心底ずるいと思った。

 

 

 

彼は良くも悪くも頑固で考えが浅い。だから何を考えているのか何をしたら喜ぶのか、わかりやすい。そんなところが年上な分可愛くもあった。

 

少し押したらLINEを交換してくれたり家まで送ってくれたり、電話口で泣き出しそうな私のために深夜に家まで来てくれるとは思わなかったけれども、それでも言い方は悪いが付き合うまでは笑ってしまうくらい彼の行動は私の計算通りだった。

 

でも付き合い初めてから事の重大さに気づいた。

もし学校にバレたら?私は大丈夫だとしても彼は確実に首になって二度と会えなくなるかもしれない。連絡も取れなくなるかもしれない。私の家も彼の家も学校の近くだから見られてしまうかもしれない。もしかしたら誰かに既に見られてしまっていたら?

 

もし周りにバレて無理やり別れた後に、彼に私を恨みながら生きていて欲しくない。

 

これは私のエゴでしかない。けれども無意識に、でも意識して彼に嫌われようとしていた。

 

電話で話したいことがあると言われたと時に、このまま変わらず恋人同士でいたいと思いつつも彼が何の話をしてくるか分かっている自分も、その話をしてくれるのを待っている自分もいた。

 

いつも二人きりになった時に「迷惑じゃないですか?」と心配する私と裏腹に「自分がしたくてしてるから」と私の横で微笑んでくれる彼が、ようやく自分の立場に気づいてくれたのだとほっとした。

 

 

 

これはダメな恋だ。彼のためにも諦めなければ、忘れなければ。

 

それでも別れてからは気がつけば彼を求めていた。彼とのキスも性行為も何度反芻したか分からない。ベッドで横になると彼の匂いすら残っていないのに彼の体温を探している自分がいた。学校でメガネを外している彼の顔を見る度に一緒に過ごした夜を思い出して泣き出しそうになった。ところ構わずまた私に触れてくれないかと彼に会う度に思ってしまった。彼とのキスを忘れられないようにいくら体調が悪くなろうが彼と同じタバコに手を伸ばしてしまっていた。彼が1番好きだと言っていたaikoの曲をカラオケに行くたびに歌うことも止められなかった。彼と付き合っている頃は1度も泣いたことは無かったのに別れてから彼を思って泣かない日の方がずっと少なくなってしまった。

 

 

 

人は変わっていく。前好きだった彼だって今は嫌悪感を抱くほどになってしまったし、小学校の頃好きだった人は今何をしているのかすら知らないし興味すらない。

 

でも私の中の彼は変わらない。一緒にいた時間が短かった分、逆に思い出の中の彼は私を抱きしめながら一緒に眠ってくれる優しい彼のままでしかない。私が作った料理を美味しいと可愛い笑顔を浮かべながら食べてくれた彼も、ベースやギターを弾きながら私がお風呂から上がるのを待ってくれた彼も、私の中から消えてくれることは無い。

 

 

 

 

 

「りん子には幸せになって欲しいから」

 

別れた日、そう電話で彼に言われた。「俺に出来ることは何でもするから」とも言っていた気がする。

 

ありきたりなJ-POPの歌詞みたいだけど、でもそれはあなたの隣で叶えたいのです。

ほろ酔い

 

彼と別れて1週間。吹っ切れたと友達には言っていたものの、返ってきた合鍵だったり吸い始めた彼と同じ銘柄のタバコのせいで未だに彼のことも彼を好きな気持ちも忘れられないままでいる。

 

 

 

 

 

「ベタベタするのが好きじゃない」

 

「電話もあまり好きじゃない」

 

「付き合ってるからってそんなに会わなくていい」

 

キスをしてきたのは彼からだった。深夜にかかってきた電話も、バイトが終わったあとのお迎えもしたいと言ったのは彼からだった。なのになんで、急にそんな真逆のことを言ってくるの。

最後の電話はどうしても彼のことを嫌いになる決定打にしかならないような後味の悪すぎるものだった。直接話したいと言う私に「同じマンションに同じ学校の学生がいるから」と却下され、最後のキスもあやふやなまま私たちの関係は元通りだけど元通りじゃ無くなってしまった。

ノンセクシャルであることをカミングアウトしたものの、彼からは「それを知ってしまったらもう(セックスが)できない」と言われてしまいなんで私が嘘をついてまであなたと付き合いたかったか、あなたのために普通の女の子でいようと思っていたのか、何も伝わってなかったのかなあ。さらに「同じ性的指向の人でいい人が見つかるといいな」なんて残酷なことも言われ色んな込み上げてくるものを飲み込みながら「ごめんなさい」と言うしか出来なかった。

 

 

別れた次の日も普通に彼とは学校で会った。私が熱を出して休んだ分の欠席の届けを出すためだった。自分で自分のいる時間まで丁寧に伝えてちゃんとおいでよ、なんて言ってたのに「どうした?」なんて白々しい顔で聞いてくる彼は本当にずるい大人だな、と思ってしまった。思い返してみたら初めてバイト先に来た日も「ほんまはあかんのやけどなあ」なんて言いながらも携帯の画面にはLINEのQRコードがしっかり表示されていたっけ。

 

 

 

 

キスもセックスも彼とが初めてだった。タバコを吸ったあとのメンソールの味のするキスもお酒を飲んだあとのふわふわしたキスも大好きだった。好きな人の体温がこんなに心地いいんだと教えてくれたのも1人で寝る夜の寂しさを教えてくれたのも全部彼だった。彼の直ぐにバレるようなくだらない嘘に対して「ダウト」だったり一緒に寝ていて胸を触ってきた時に「起訴!」「不起訴!」だなんてベットの中でふざけ合うのも彼とじゃなきゃ楽しくなかった。

少なくとも電話1本で片付けられるような恋ではないはずだったのに。

彼が私の部屋に初めて来て初めて一緒に朝を迎えたあの夜だけでも、確かに私たちは恋人だった。

 

 

 

彼に貰ったもので形に残ってるものはほろ酔いの桃1缶だけ。ずっと丁寧に冷蔵庫にしまっている。「家が近い分学校も近いのに、軽率だった」なんてあしらわれてしまった、でも私にとっては大事なあなたとの思い出を引き止めてくれるもの。

ほろ酔い1缶なんかじゃちっとも酔えないのに、彼の前だからと可愛こぶって選んだものだった。

ねえ、また一緒に飲みに行ってくれますか?

私は、

 

 

好きな人が彼氏になって1週間と少しが経った。

 

 

私のことをいっぱい褒めてくれる人。

私より背が低いけど自分の全部で私を包み込んでくれる人。

一緒に寝てる時にすぐおっぱい触ってくるしくだらない話ばっかりするし、すぐバレるような嘘を吐いてくる。でも一緒に居て心が暖かくなる人。

 

 

 

 

お互いの立場もあって外でデートらしいデートは出来ず、今は私のバイトの帰りに迎えに来てくれたりお互いの家にお邪魔したり、私の家でお泊まりをしたり。

そりゃ年頃の男女が夜中に2人きりだったらキスやそれ以上をする関係には自然になってしまうもんで1年前では死ぬまで一生しないだろうと思っていたセックスだって済ませてしまった。

 

 

 

 

そこで芽生えた疑問が「私は本当にノンセクシャルだったのか?」ということである。

前まで私の認識は

 

好きになった男性

☞手を繋いだりハグ、キスもしたいと思えない

好きになった女性

☞キスをしたり性行為をしたいと思えない

 

というものだった。しかし彼の腕の中で寝るのに慣れつつある今では手を繋ぎながら寝たりすることも自然と行っている。

しかし、それに対して彼との行為を純粋に幸せだと思っているのか、前までずっとノンセクシャルである事に悩んでいたことから彼から見た私が普通の女の子になれていると思って幸せだと思っているのかが自分でもよく分かっていない。彼に対してキスやセックスをしたいと思う気持ちも性的欲求が彼に向いているからなのかただの性欲を解消したいからなのかも分からない。

でも私を抱きしめてくれる彼の体温も、行為中に私の髪の毛を撫でてくれる指先もどうしても嫌いになれないし、自分の性欲の解消のために彼の気持ちを利用しているとも思いたくなかった。

 

 

 

 

私は一体何になれば気が済むんだろう。

ノンセクシャルであることに対して死のうと思うほど悩んでいたはずなのに今度はノンセクシャルの定義に自分が当てはまらなくなったら困惑している。喜んでいる自分がいるのも事実だが、自分が名前すらつかないような訳が分からないものになりつつある感覚があって自分に対して気色が悪いとも思ってしまう。

こんなことを悩んでいると彼にバレてしまったらどうしようと思いつつも普通の女の子になりきれてない私もいる。彼が「可愛い」と言ってくれた私は本当は人の皮を被った何かなのかもしれない。

 

 

 

 

 

今日もお酒を飲みながら彼のことを考える。

 

「ずっとそばにいれますように」

 

だから絶対、言うものか。

懲りずに

この半年間ずっと好きだった彼への気持ちが冷め切ってしまった。好きな人と彼女のインスタなんて知るもんじゃない。普通の男の人を好きになったって自分が泣く羽目になるのは十二分に分かっているのにそれでも懲りずに別の男の人を好きになってしまっている私は誰かに恋をしていないと生きていけない人種なのだろうか。

 

 

 

 

好きな人が出来る度いつも最後の恋であって欲しいと思っているのに人生はそう上手くいかず、死ぬほど好きな人になら捧げてもいいと思っている処女は未だに健在であるし1本しかない合鍵は相変わらず私の部屋のクローゼットに置かれたまま。30本以上の酒瓶に囲まれながら(ガチです)ひたすらだらだら飲みたい酒を飲み1人寂しく夜を越している。

 

 

 

今回好きになったのは学校の先生で歳は私の7つ上。直接授業を受け持っている訳ではないのだがたまたま学校のライブに出演するのを先生が知っていてくれてて前々から会う度に「見るな~」と声をかけてくれていた。しかしその頃は前好きだった彼へのどろどろとした執着が私の生きることへの原動力だったためそういう対象としては見ていなかったし、話も面白いし素敵な人だとは思っていたけどもむやみやたらにノンセクでは無い人を好きになっても自分が辛いだけだと、あと1本踏み込んだら落ちてしまいそうなラインに立ちつつも脳内の冷静な自分にストップをかけられて極力先生のことは気にしないようにしていた。

 

それでもなんだかんだすぐ先生にも恋に落ちてしまった。相変わらず私は優しくされたら直ぐに惚れてしまうおめでたいチョロい人間だなあとは思いつつも前好きだった彼に釣り合うようになりたいと努力したおかげで昔より自分に自信を持って先生にアタックすることは出来ているような気がしている。

私より背が低いけど昔剣道をやっていたおかげか姿勢がいいなといつも見ていて思うし、仕事中にだけめがねをかけているギャップだとか私を見かけたら手をふりふりしてくれるとこなんかがかわいいし、大概見かけるときは誰かと話をしていたりしていて歳が近いこともあるけど生徒に慕われているんだなあとほっこりしてしまう。

 

 

 

 

 

「歌めっちゃ上手いからアーティストでもいけるのになあ。自分で曲作ったりしてないん?」

なんてライブを見た後に先生は言ってくれた。

でもね先生、私普通の女の子じゃないんだよ。

私もずっとシンガーソングライターになりたかったけどノンセクシャルだって自認してからそれまでずっと頭の中で鳴っていた音楽が止んじゃって、それでも音楽に関わる仕事に就きたいから今こうして専門に通ってるんだよ。

 

 

先生には絶対に言わない。私がノンセクシャルな事も、シンガーソングライターになりたかった事も。いつもこんなことを考えつつも好きな人に気持ちが落ち着いた後にカミングアウトしてしまっていることも。

 

 

 

ねえ、あなたの目には私は普通の女の子に見えてますか?背が高くて美人でスタイル良くて料理も家事全般も完璧で歌も上手くて好きなことに一直線でたまにド天然になる、なによりあなたの事を誰よりも好きな、他の子よりも特別な女の子だって思ってくれてたらそれだけで私は幸せです。

 

 

 

 

 

明日も先生に会えますように。私に向かって私の好きな笑顔を見せてくれますように。そう思いながら今日も眠りにつく。

好きだった子と好きな人

 

 

「お友達としてしか見れないから、やっぱりお付き合いは出来ない」

私の告白にそう返事をしたあの子に7.8ヶ月経った先月ようやく連絡を取った。彼氏が出来たと言われて改めて自分が「女友達」でしかないのだと突きつけられた気がした。

 

 

 

ねえ、男の人が苦手だって言ってたじゃん。なのにそれまでろくに喋ったことも無いような、私よりあなたのことわかってない人と、私より背の高い陽キャみたいな顔も知らない人となんで付き合っちゃったの?私が男だったら付き合ってくれてたってこと?私は自分のこと男だと女だとも思ってないのに。「友達の延長で付き合うことも考えたけど」って言ってくれてたのに、結局男の人じゃないとだめなんだ。私と付き合うイメージが出来なかった?ノンセクシャルだから、キスとかセックスがしたい訳じゃないんだって、あなたがただ横にいてくれてたらそれでいいんだよって思ってるのに。

 

 

 

私の知らない男と一緒にご飯を食べるあの子

 

私の知らない男と手を繋ぐあの子

 

私の知らない男とハグをするあの子

 

 

 

私の知らないあの子の顔を知っている男がいる。想像するだけで憎たらしくてたまらなかった。

 

 

 

負け惜しみを言っても仕方ない。私の気持ちなんて彼女に今更伝えても迷惑でしかない。

でも「女だから」と彼女にもう一歩踏み込むのを拒否された気がしてしまった。

 

 

 

 

 

 

一方で彼女に連絡をとる少し前、男友達から私の好きな人が私のことを「女の子らしくなった」と話していたと聞いた。

当たり前でしょ、あなたのために普通の女の子になろうと頑張ったんだから。

仲の良い友達に私が無性とノンセクシャルであるとカミングアウトしたのは数日前。インスタの親しい友達のみにストーリーを使って公開した。親しい友達のリストには死ぬまで隠しておくつもりだった彼も含まれていた。この同性愛がどうだとか言われている時期に便乗したのも彼女がいることが発覚し半ばやけになってカミングアウトした節もあるが「ありのままの自分で彼に好かれたい」という私なりのけじめでもあった。

 

 

 

というのはまあ綺麗事で彼女がいる事が分かって多少なりとも冷静になり、全部が大好きだったはずの彼にも失望してしまう点がいくつか見えるようになったからだった。

 

 

いつから付き合ってるか知んないけど彼女がいるくせにねえ、他の女の子と1対1で飲みに行ってんじゃないよ。居るとか言ったらちゃんとこっちも気使って誰かしら呼ぶから。2人でカラオケ行ったりとか家まで送ったりとか、自分の将来やりたい事とか家庭環境とかそんな深いとこまで話してくんなよ。ヒールを履いていった私の歩幅に合わせて歩くなんてことしてくれなくて良かったんだよ。彼女居るんなら、どうでもいいLINE2ヶ月もだらだら続けんなよ。もう適当にスタンプ押して切ってくれよ。彼女居るんなら他の女の子が女の子らしくなったとかどうでもいいでしょ。なんで私と仲いい男友達の前でそんな話してんだよ。コロナが心配だからって私とは遊ぶのを断った彼女と週2ペースで会ってんじゃないよ。誕生日に普段上げない様なストーリーあげて匂わせんな、ばーか。ばーか!!!

 

 

 

 

確かに勝手に私が始めた恋だった。でも、振り向いて貰えるためならなんでもしようと努力したのを気づいてもらって舞い上がってたのに、こんな惨めな思いをしないといけないのはなんでだろう。何より彼女と別れたら次に彼女になれるのは私かもしれない、と未だに期待をしている自分がいるのに呆れてしまう。

 

 

 

 

好きだった彼女にも好きな彼にも本当は女として見て欲しくなかった。私を私として見て欲しかった。キスやセックスをしなくても「私も横にあなたがいるだけで幸せだよ」と言って欲しかった。私と同じノンセクシャルであって欲しかった。

 

 

私はただ、普通の幸せが欲しかった。