「キスがしたい」女の子になってた私の話

「2、3ヶ月経ってまだ何もしてないの?おかしくない?」

 

高校に入って初めての夏。部活の先輩、同期から微笑と共に言われた言葉は今も胸に刺さったまま消えてくれない。

 

高校に入学後、入った部活で好きな人ができ、告白しOKを貰い、晴れて付き合うことになった。

私は昔から根っからの少女漫画好きで、彼氏が出来たらあの漫画みたいに水族館にデートに行きたいな、とか学校から手を繋ぎながら帰るんだろうな、なんて妄想を膨らましていた。

が、しかし彼氏とデートに行っても部活終わりに一緒に帰る時も1度も手を繋ぐことは無く2、3ヶ月が経った。

それでも私は「まあ明日になったらできっかな」、と夏休みの宿題を先延ばしにする小学生のように悠長だった。別に手を繋がないからと言って退屈ではないし彼を嫌いになる訳でもない。彼と一緒にくだらない話をしながら学校から帰るのは私にとってとても満ち足りた時間だった。

そんな中、部活中に「最近彼とはどうなの?」と聞かれ馬鹿正直に「いや~なんもしてないですね!一緒に帰ったりLINEは毎日してますけど!」なーんて答えた結果言われたのが冒頭の言葉になる。

 

「今の答えの一体何がおかしいんだろう…?」という疑問が私の脳内を駆け巡った。別にこの2、3ヶ月は喧嘩もしてない。受験生の彼の勉強の妨げにならない程度に遊びに行ったり一緒に図書館で勉強したりもした。私たちはお互いの「好き」という気持ちを順調に育みあってる、どこにでもいるカップルなのだと思い込んでいた。

『「手を繋いでいない」、「キスをしていない」から。なんてそんなことで私たちはおかしいと嘲笑されなければいけないのか…?』とその時は軽い恐怖に苛まれた。

また、入部後に仲良くしていた同期と先輩も付き合いだし、相手以外周りの見えていない典型的なバカップルと成り果て部活中にいちゃこらしたり学校でも路上でもキスするのは当たり前だったりで、少し性嫌悪持ちの私は当時は見てるのも苦痛だったしこれが「正しいカップル像だ」と押し付けられているのも辛かった。

しかしこの時はまだ「ノンセクシャル」という言葉も、こんな悩みを抱えているのは私だけではないということも知らず、クラスの女子同士の「もうキスしたの??」なんて会話を盗み聞きしながら「みんなどうしてキスが出来るんだろう…?」と課題や家事に追われながらもぽつぽつと考える日々が続いた。

 

彼氏は当時住んでいた場所とは遠くの大学に行くつもりだったため少なくとも1、2年は遠距離になることが確定していた。

その事を周りのみんなは知っていたため、良かれと思い、「手を繋いだり、キスだって離れる前にしておかないと離れてから後悔するよ」と言ってくれた。

それでも私も彼もしたいと思わなかったから手も繋がなかったし、ハグもしなかった。

別れる前に彼と最後に会った2年前の私の誕生日も、彼の家で私の好きなゲームをして、誕生日プレゼントをもらって、私は自作のドラクエのスライムのぬいぐるみを彼にプレゼントした。その後私の作ったお菓子を食べて、彼の家の最寄り駅まで送ってもらって、「じゃあまた、向こうでも頑張ってくださいね」と言って別れた。

彼はその次の次の日ぐらいに大学のある東京へ引越す予定で、私はなんとなく「この後もう会えなくなるんだろうなあと」思いながらも最後までハグもキスもしなかった。

 

今思い返すと彼もノンセクシャルだったと思う。2年近く付き合ってきて、ずーっと私よりも色んな小言を言われてきたのだと思う。それでも最後まで周りに言いふらすために既成事実を目的に中途半端な気持ちで私に手を出したりすることは無かった。私がイライラをぶつけても彼から私に八つ当たりすることもなかった。本当に優しい人だった。

別れたことを報告すると親や兄弟には「結婚するかと思ってたのに」と言われたが、将来の事や普通のカップルという概念に私が囚われすぎて彼とどうして付き合っているのか、という意味が見いだせなくなってしまったり、新生活が始まり私のために時間を割けなくなった彼とのすれ違いが耐えきれずに別れてしまった。

パートナーとしては最高の人だったと思うが、恋人にするには向いてなかった人なんだな、と思う。もしお互いが就職した後だったり、将来への基盤が完成された状態で出会えていたら結婚まで踏み込めていたのでは、と時たまに考えてしまう。

 

大学に入り「ノンセクシャル」という枠組みを見つけた。

ノンセクシャルを自認してから苦しいことが無かったかと言われたら「NO」だが、「キスがしたい」と思う女の子に私はもうならなくていいんだ。