世界一馬鹿な夢女子の私の話 そのいち

私の好きな人はベーシストだ。

 

ベース、ウッドベース、ギターが弾けてサックスも吹けるし歌が上手いのはもちろんのことオペラも歌える。作詞作曲も最近始めたし料理はプロ並みだしラジオのパーソナリティーもしている。武道館公演も行ったし音楽の教員免許を持っていてコミュ力おばけで笑い声が大きくてネットに疎くて中学生みたいにくだらない下ネタでげらげら笑ってる。でもそんなとこほも含めて全部が好きだ。

 

あなたを好きになってどれだけ笑ってあなたを好きになってどれだけ泣いたか分からないぐらい好きだ。

 

 

 

 

 

初見では読めない中途半端に長いバンドの名前は前から知っていた。たまたま好きなバンドと対バンするから、という理由でライブに行けない代わりに軽い気持ちで音楽を聞いた。それが始まりだった。

でも最初は全然好きだとかそういう感情は無くて、顔も好みじゃないし、笑い声はうるさいし逆に悪い印象の方が多かった。

 

言葉も街も何もかも違う関西に出てから半年、ひどいホームシックにかかった私は毎日毎秒地元に帰りたいという気持ちで支配されていた。気を緩めると泣いてしまいそうなくらい心はやられており、いつも実家から通っていた小学校への通学路のイチョウの木や高校の頃毎日友達とご飯を食べていた狭くて埃っぽい文芸部室のことばかりが思い出された。

 

あなたに恋をしたのはそんな時だった。

 

初めてフェスの短い時間だったがライブを見てすっかりそのバンドにハマってしまいライブの次の日にはファンクラブに入り、私は毎日YouTubeで動画を漁っていた。

そんな中、複数のアルバムから抜粋された曲のショートムービーの途中のとある曲の一瞬、ほんとに一瞬だった

曲に合わせて彼がサスペンダーを引っ張ってパンパァンとした瞬間の脳内のパニックぷりといったらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?可愛すぎんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30歳手前してこんなことして許されるのか…?20代前半のアイドルでもきついぞ??その後繰り返し10回は観た。でもかわいい

 

 

 

かわいい。

 

 

 

 

 

かわいい。

 

 

 

 

 

KAWAII

 

 

 

 

 

 

 

 

1秒足らずのその仕草で私の全細胞が彼の虜になった。私にも細胞レベルで恋をする時がやって来てしまったのだ。

そこからすぐファンクラブライブのチケットを取った。ファンクラブのラジオで彼が話していると所々私の地元に似ている訛りが聞こえてきて、それがたまらなく大好きで、気がつけばホームシックは吹き飛んでいってしまった。

また、ライブではミーグリという終演後にメンバーと会えるという情報を入手し当時化粧品と言えばBBクリーム、ファンデーション、アイブロウペンシル、アイライナー、色つきリップぐらいしか知らなかった私は急いでMERYを開き、コスメについての勉強を始めた。彼に会うまでに綺麗にならねば。その一心だった。前まで3分だったメイク時間が段々長くなり、今は20分から30分ぐらいになっている。

彼がパーマを当てたと聞き私も人生初のパーマを当てた。ずっとくそ重い前髪をぱっつんにしていたのだが初めておでこを出した。この頃から美人だと周囲から褒めて貰えるようになった。中学の頃に言われたスタイルいいけど顔は残念だよね、という一言からずっと私は醜いと思っていたが段々と自分に自信が持てるようになってきた。自信が持てることによってバイト中の笑顔が増え、褒められることも多くなった。

 

今年の春、彼のバンドと私の大好きなバンドの対バンが行われた。当日、会場で彼のお立ち台の真ん前の4列目辺りという好位置をゲットし、他の人よりも背の高い私に目がよくいっていたのか何度も目が合ってしまい喜びでその場に倒れ込みそうになりながらも「全力で楽しんでいるよ」、という感情を笑顔やクラップで彼に届け続けた。彼の誕生日がライブの次の日ということもあり、ひたすら「誕生日おめでとうございます!」とステージをはけるときに叫んだ。

 

そんな幸せを噛み締めている中Xデーはやって来てしまった。

 

夢の中で私と彼はベッドが2つ並んだ空間でベッドに向き合うように座っていた。

記憶はあやふやだが会話をしていた中、彼の言った言葉はまだ一言一句忘れることが出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きです。結婚を前提にお付き合いしてくれませんか」